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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)2180号 判決 1999年12月17日

原告

瀧川克夫

(ほか九名)

原告ら訴訟代理人弁護士

北本修二

内海和男

被告

株式会社協和運輸

右代表者代表取締役

藤原正夫

右訴訟代理人弁護士

村野譲二

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告らが、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二1  被告は、原告瀧川克夫に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六五万一九七〇円を支払え。

2  被告は、原告増田英俊に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六〇万三〇八四円を支払え。

3  被告は、原告去來川時光に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六三万円を支払え。

4  被告は、原告辻井保雄に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六一万三二〇〇円を支払え。

5  被告は、原告藤岡功三に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額五四万一九八八円を支払え。

6  被告は、原告溝端博志に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六一万四二六一円を支払え。

7  被告は、原告辻井(ママ)三男に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六〇万一一四五円を支払え。

8  被告は、原告上田正夫に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六三万五五七六円を支払え。

9  被告は、原告山中久也に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額六三万円を支払え。

10  被告は、原告辻井勉に対し、平成一一年二月から毎月一五日限り、月額五八万六八一四円を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告から業務委託契約の解消を通告された原告らが、被告との契約関係は労働契約であったと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払賃金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、貨物自動車運送事業を目的とする会社である。

原告らは、被告が所有するタンクローリー車に乗務してバラセメント輸送の業務に従事してきた。

2  原告らは、平成七年七月一九日、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「組合」という。)協和運輸セメント輸送分会(以下「分会」という。)を結成し、被告に対し、原告らの正社員化等を求めた。原告らと被告間では数回団体交渉が行われ、話い(ママ)合いの結果、同年一二月二五日、原告らは各自、被告との間で被告の輸送業務に従事する旨の業務委託契約(以下「本件各契約」という。)を締結した。

本件各契約の契約期間は平成八年一月一日から同年一二月末日までであるが、平成九年及び平成一〇年は右各契約は更新された。

被告は、平成一〇年一一月二四日、原告らに対し、同年一二月三一日をもって本件各契約を解消し、延長しないと通告した。

3  原告らが、被告から支給されていた報酬は毎月末日締切り、翌月一五日払いであり、平成一〇年九月ないし一一月の三か月間の原告ら各自の平均報酬額は、本件請求二に記載の各金額である。

二  本件の争点

本件各契約が労働契約か否か

三  当事者の主張

1  原告ら

(一) 原告らと被告との契約関係は、以下の諸事情からして、労働契約そのものである。

(1) 原告らには、仕事の依頼、業務従事に関する許諾の自由はない。

原告らは、タンクローリー車を所有しないため、被告からの仕事の依頼を拒否した場合、他社の仕事をすることは不可能である。このため、原告らは、これまで専属的に被告の仕事に従事してきており、被告からの仕事の依頼を拒否したこともない。

原告らが被告の仕事の(ママ)拒否すれば、後述のとおり報酬からの減額がなされることからして、仕事を拒否することは考えれ(ママ)ないし、一日の稼働状況からして、他の仕事に従事し得る余地もなかった。

(2) 原告らの仕事には、実質的に勤務場所及び勤務時間の指定がある。

原告らは、タンクローリー車を所有しないため、始業時には被告の北港営業所または堺営業所に出勤して、そこの車庫から出発し、終業時には同営業所に戻り、車庫に駐車しなければならない。そして、原告らの勤務時間も、当日の仕事内容やセメントメーカーのサービスステーション(以下「SS」という。)の閉鎖時間が決まっていることなどから、始業、終業時刻とも実質的には定まっていた。

原告らは、毎日、日報及びタコグラフを被告に提出することを義務づけられており、また、車載無線で仕事の指示や変更等の連絡を受け、仕事終了時にはその旨無線で告知することを義務づけられていた。

したがって、実質的には、車庫のある同営業所が原告らの勤務場所であり、始業、終業時刻も指定されており、勤務時間の管理は日報とタコグラフで行われていたというべきである。

(3) 原告らの業務内容は被告によって定められ、原告らは、その業務遂行について被告の指揮命令を受けていた。

原告らの仕事はタンクローリー車でバラセメントを被告指定の取引先に配送することであるが、毎日、午前三時三〇分頃、被告の右営業所に出勤し、午前四時頃から午後四時三〇分ないし午後五時頃まで、一日三、四回のバラセメント輸送に従事する。

当日の業務終了後、被告の配車係に連絡し、翌日の指示を受ける。配車係から、「宵積み」(朝一番で、セメントを取引先の生コン工場に届けなければならないため、前日の終業時に荷積みしておくこと)の指示を受けた場合、SSで荷積みして被告の車庫に入る。SSは午後四時頃閉鎖するため、宵積みの場合はそれまでにSSに到着しておく必要がある。帰社後は、当日の日報を配車係に提出し、翌日の仕事の具体的な指示を受けるが、その時点で翌日の予定が入っていない場合は退社したうえで、午後五時すぎに原告らの方から電話で翌日の仕事の指示を受けることになる。

宵積みの場合は当然朝一番の搬入の指示があり、午前四時頃出発しなければ間に合わないため、午前三時三〇分頃には出勤しなければならない。

納入場所、納入時刻の指定がなされれば、出発時刻や運送経路は自ずと決まってくるのであって、これらが原告に任されていたものではない。

原告らは、労働安全に関して、ヘルメットの着用、安全ベルトの装着等に被告から具体的な指示を受けることがあるほか、被告のマーク入り作業服等について、被告から金具の提供を受けて購入したこともある。

以上のとおり、原告らの業務内容や遂行方法は被告の指揮命令下に行われていた。

(4) 原告らの労務には代替性がない。

本件各契約では、原告ら自身が労務を提供することを前提としており、これまでも、原告らが自己に代わって別の者を業務に就かせたことはないし、タンクローリー車の運転という労務の特殊性(単に自動車の運転ができればよいというものではない)からしても代替性がない。

(5) 原告らに対する報酬は、基本的には出来高払であるが、月額六〇万円の最低保障がある。しかも、原告らの都合による休業の場合、一日当たり最低保障額の二五分の一に当たる二万四〇〇〇円が減額される。

すなわち、月額六〇万円が固定給として生活保障的機能を果たしつつ、休業の場合には欠勤控除がなされているのである。

(6) タンクローリー車の燃料費及び高速道路料金は原告らが負担しているが、自賠責保険、車検代、任意保険、修理代については被告が負担している。

これらは、以前はすべて原告らが負担していたところ、本件各契約締結の交渉段階で、被告が月額六〇万円の最低保障をすることになったため、その一部のみを原告らの負担としたものである。

(7) 原告増田、同去來川、同山中については健康保険料、厚生年金保険料、厚生年金基金保険料の控除がなされているし、原告瀧川、同藤岡及び同上田については当初社会保険に加入していたものが、被告の懇請により国民健康保健に切替えられた経緯があり、さらに、原告増田の場合、被告の一方的な都合で健康保険から国民健康保健へ、さらに健康保険へと切り替えがなされている。

原告らは、平成九年まで毎年一回、九月ないし一〇月頃にトラック協会の健康診断を受けていたが、これも被告から受診するよう指示されたものであり、その費用も被告が全額負担していた。

(二) 和解書(<証拠略>)について

被告は、和解書で、原告らと被告との間の雇用関係不存在を確認したというが、右和解書取り交わし当時、原告らの正社員化をめぐって労働争議が起こっており、その結果、原告らを正社員化するための環境整備のため二年間の猶予期間を設け、その間は原告らが雇用関係の存否を争わないという趣旨で右和解書が取り交わされたのである。右和解書三項に「平成一〇年一月一日より、希望する者について話し合いをする」とあるのは、その時点から雇用関係の存在を主張できる旨双方で確認したものである。

(三) 右のとおり、本件各契約が労働契約である以上、本件各契約の更新拒絶は実質的には解雇であり、解雇の法理が適用されるべきである。

しかるに、被告は右更新拒絶について何ら正当事由を主張しておらず、解雇権の濫用である。

また、右更新拒絶は、原告ら及び分会による賃金体系の適正化や正社員化の要求等を嫌い、原告らが分会員であることを理由になされたものであって、不当労働行為であり、この点からも無効というべきである。

2  被告

原告らと被告との契約は請負と委任との混合契約であり労働契約ではない。原告らは、平成七年一二月二五日、和解書において、被告との間に雇用契約がないことを確認した。

原告ら業務委託契約者と被告の従業員とを、業務内容、報酬等について比較すると、以下のとおりの違いがあり、原告らが労働契約上の権利を有する地位にあるとする余地はない。

(一) 業務内容

ア 具体的な業務の指示は前日に配車係が行うが、これに対し業務委託契約者には諾否の自由があるが、従業員にはない。

原告らが一定の得意先への運送業務を拒否してきたこともあるし、業務委託契約者同士で業務を交替したりすることもある。

イ 物品の運送先、納入時刻についての指示はするが、運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示はせず、運転者に任されている。

ウ 業務委託契約者は、委託業務以外は行わないが、従業員は生コン車やユニック車に乗務したり、配車係の業務を行うこともある。

エ 勤務時間は、従業員が就業規則により午前八時始業、午後五時終業、正午から午後一時まで休憩時間と定められているのに対し、業務委託契約者にはこのような定めはない。

オ 業務委託契約者の場合は、被告の了解を得たうえで、他の者に労務の提供をさせたり補助者を使用することはできる。

(二) 報酬

ア 業務委託契約者の報酬は、輸送したセメントの数量に輸送距離に応じた単価を乗じて算出する全くの出来高制であり、各業務委託契約者が毎月末日締めで各自請求書を作成して請求し、翌月一五日に支払われる。また、これに消費税五パーセントも加算されている。

従業員には、毎月末日締切りの賃金が支給されている。

イ 従業員の場合、欠勤一日について基本賃金及び諸手当の二五分の一が控除される。

業務委託契約者の場合、欠勤控除の考え方を採っていないが、業務委託契約書の特約により、月額六〇万円を最低保障しており、欠勤した場合、最低保障額から一日当たり二万四〇〇〇円を差し引くこととしている。

ウ 時間外及び休日労働について、従業員には一定額の賃金支給があるが、業務委託契約者には割増賃金の支払等はない。

(三) その他

ア 従業員は費用を負担しないが、業務委託契約者は燃料費及び高速道路料金を負担している。

なお、本件各契約締結以前は、現在被告が負担している自動車保険の保険料、修理代も業務委託契約者が負担していた。

イ 業務委託契約者は、被告所有の車両を使用するのでなければ、他社の業務に従事することに制限はない。

ウ 従業員の場合は、所得税、住民税を源泉徴収しているが、業務委託契約者は各自確定申告している。

エ 社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)についても、従業員は給与から保険料を控除し、事業主負担分と併せて被告が納付しているが、業務委託契約者は報酬から控除されることはなく、加給、保険料納付は各自が行っている。原告らのなかで、加入を希望するものについては被告が便宜を図ってきたが、その保険料は全額本人負担であり、被告が報酬支払時に控除して納付してきた。

労災保険については、従業員は適用対象としているが、業務委託契約者は適用対象から除外している。

健康診断も労働安全衛生法で受診を義務づけられているため、従業員には受診するよう指導しており、業務委託契約者についても平成五年までは無料であったため受診の便宜を図ってきた。平成九年からは従業員のみが受診している。

オ 就業規則は従業員には適用されるが、業務委託契約者には適用がない。

カ 退職金制度も、従業員には就業規則に基づき定められているが、業務委託契約者には規程がない。

第三当裁判所の判断

一  証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告瀧川は、昭和三八年から(但し、当時は被告は個人経営の藤原商店であり、法人なりして現在の被告となったのは昭和四〇年頃である。)、同増田及び同辻川はいずれも昭和四七年頃から、同去來川は昭和四八年頃から、同辻井保雄は昭和五二年頃から、同藤岡は昭和五三年ころから、同溝端は昭和五四年頃から、同上田は昭和五五年頃から、同山中は平成二年頃から、同辻井勉は平成元年頃からそれぞれ被告の運送業務に携わるようになった。

2  平成七年頃、原告らは、いずれも被告所有のタンクローリー車に乗務して、被告のバラセメント輸送業務に従事していたが、その報酬支給形態は概ね出来高払(但し、原告上田、同山中など一部月給制の者もあった)で、他の従業員が固定的な賃金支給を受けているのと異なっており身分が不安定であったこと、また、乗務するタンクローリー車は原告ら各自の専用のものとされ、燃料費や高速道路代金のみならず自動車保険の保険料、修理代をも負担させられていたほか、新車購入の場合にはリース料と称して月額一〇万円の使用料を三年間にわたって徴収されたりしていたこと等を不満として、同年七月頃分会を結成し、被告に対し、正社員としての賃金に改訂すること及びリース料の返還を要求し、団体交渉を求めた。

これに対し、原告らとの契約関係は雇用ではないと考えていた被告は、組合や分会との交渉を進める一方、同年一〇月ころ、原告らを被告として雇用関係不存在確認の訴えを提起した。

このような紛争を巡って、被告代表石が組合役員及び分会役員らと協議した結果、合意ができて、平成七年一二月二五日、原告ら及び被告は和解書(<証拠略>)及び業務委託契約書(<証拠略>)を取り交わし、被告は右訴えを取り下げた。

右和解書には、「乙(原告ら)と甲(被告)との間に雇用関係がないことを確認する」(一項)、「乙は平成一〇年一月一日より本採用の(ママ)希望する者について話し合いをするものとする」(三項)等と記載され(なお、右三項の「乙」は、甲の誤記と認められる。)、また、業務委託契約書には、「甲(被告)は乙(原告ら各自)に対し、製品の輸送に関する運転業務を委託し、乙はこれを受託した」(一条)、「甲は乙に対し、甲乙間で別途定めた基準に従って運賃を支払う。(中略)3 甲は乙に対し、一カ月当たり、六〇〇、〇〇〇円の運賃を最低保障として支払う。但し、毎週日曜日及び国民の休日以外の日に乙の都合により休業した場合又は乙が甲の指示した業務を行わない場合、甲は乙に対する最低保障額から一日当たり二四、〇〇〇円を差し引くものとする」(三条)、「乙は業務を行うにあたって、必要な費用のうち燃料費及び高速道路料金を負担する。2 甲は乙が業務を行うにあたって必要な費用の内前項の定めのない費用を負担する」(五条)、「本契約の有効期限は平成八年一月一日から平成八年一二月三一日までとする。(中略)3 期間満了の一カ月前迄に甲、乙いずれか一方より何らかの申し入れがないときは、さらに一年間自動的に延長されるものとし、以後、同様とする」(七条)、「甲は平成一〇年一月一日より本採用の希望があれば話し合いをするものとする」(八条)等と記載されていた。

3  右業務委託契約書に基づき、原告らに支払われる報酬は、いずれも月額六〇万円の最低保障がついた出来高払制となり、輸送先毎に輸送距離に応じた単価が取り決められ、これに輸送量を乗じて算出するものとされた。

原告らは各自、毎月末日を締日として一か月分の運賃の請求書を被告に提出し、これに基づいて被告から報酬が支給されてきた。

原告らがそれまで負担していた自動車保険の保険料や修理代金は被告が負担するようになった。

なお、原告らに対する報酬については、被告との協議で、すでに平成六年六月ころから、消費税を加算して支払われており、また、以前から所得税、住民税の源泉徴収もされておらず、納税手続は原告ら各自が確定申告をするなどして行ってきた。

また、右和解書及び業務委託契約書の取り交わし当時から、原告らはいずれも雇用保険に加入していなかったし、原告去來川、同増田、同辻井保雄、同辻井勉及び同山中は社会保険に加入していたが、原告辻井両名については、右取り交わし後、同原告らの申出により、被告において資格喪失の手続きがとられた。右原告ら五名の社会保険の保険料は全額同原告らの負担であった。

労災保険については、右取り交わし以前から、被告は原告らを適用対象としておらず、右取り交わし後も同様であった。

健康診断については、平成五年まで受診料が無料であったこともあり、被告は、原告らに対しても希望者には受診させてきたほか、その後も平成八年までは被告が費用を負担して原告らのうちの希望者には受診させていたが、平成九年以後は経費節減のため原告ら費用を負担してまで受診させることはしなくなった。

原告らに対する退職金の支給を予定した規程はない。

他方、従業員として扱われている運転手は、基本賃金に諸手当からなる月給制の賃金(最も高額な者でも、平成一〇年当時で、月額賃金は四七万円程度であり、年二回の賞与の合計は八〇万円程度であった)の支給を受けており、雇用保険、社会保険については、従業員負担分のみが賃金から控除され、また、労災保険の適用対象として取り扱われている。また、業務に要する費用は燃料費等を含めすべて被告が負担しており、毎年健康診断も受診し、その費用は被告が負担している。さらに、就業規則に基く(ママ)退職金の支給も予定されている。

4  原告らの業務は右和解書等の取り交わし前後を通じて変わることはなく、概ね以下のとおりであった。

すなわち、原告らは、宵積みを指示されることが通常であり、概ね午前三時三〇分頃被告の北港営業所または堺営業所に出向き、車庫からタンクローリー車を運転して指定された被告の取引先にバラセメントを輸送する。その後、数回の輸送を行うが、SSが午後四時頃閉鎖するため、その頃までには当日の業務は終了する。当日の業務が終了すると、被告の配車担当者に無線で連絡し、翌日の指示を受ける。配車担当者から、宵積みを指示されると閉鎖前にSSに赴いて荷積みし、タンクローリー車を被告の車庫に駐車し、日報を配車係に提出して翌日の業務の指示を受ける。その時点で翌日の予定が入っていない場合は一旦退社したうえで、午後五時すぎに原告らのほうから電話で翌日の仕事の指示を受ける。なお、輸送先の変更等が生じた場合は無線で指示を受けることになり、また、業務が早く終了した場合でも、翌日の業務の指示がある午後三時頃までは待機することとなる。

被告は、原告らの勤務状況を日報によって確認しており、タコグラフは、車両管理や事故発生時等の資料として使用していた。

他方、従業員として処遇されている運転手の勤務時間については、就業規則により、始業は午前八時、終業は午後五時、正午から午後一時までが休憩時間とされ、出勤時には出勤簿に押印するものとされており(但し、平成一一年二月からタイムカードが導入された)、時間外勤務及び休日勤務に関しては定額の手当が支給されることとなっている。

なお、従業員として処遇されている運転手の勤務時間の関係から、早朝及び午後一時を納入時刻とする業務には原告らが当てられることが多かった。

二  以上認定の事実によって判断する。

確かに、原告らは被告所有のタンクローリー車を使用して、被告の指示するバラセメント輸送業務に従事しており、その仕事も継続的であって、雇用に類似する面がないとはいえないし、報酬は出来高払制とはいえ、最低保障があり、欠勤した場合には、欠勤一日につき、被告の従業員たる運転手と同様の割合である二五分の一に相当する金額を最低保障額から控除されることとなっていることも、労働契約性を認めるに有利な事情の一つということができる。

しかしながら、第一に、原告らは、和解書及び業務委託契約書を取り交わすことによって、被告との関係が雇用契約でないことを確認している。

そして、賃金を出来高払とすることは労働契約の本質に反するものではないが、被告には、他に定額賃金で雇用されている運転手がいるにもかかわらず、敢えて原告らのみ報酬を出来高払制とされていること、その報酬額も従業員である運転手より高額であること(最高額を取得している運転手の賃金は賞与をいれても、原告らの最低保障額にすら及ばない)、業務遂行に必要な費用である燃料費等も原告らの負担とされていること、報酬支払は原告らからの請求書に基い(ママ)て、しかも、源泉徴収もなく消費税を加算した金額が支払われてきていること、退職金支給の対象とされていないこと、社会保険には加入していないか、加入しているとしても保険料は全額加入者が負担していること、雇用保険には原告らすべてが加入していないこと、健康診断の受診も任意とされていた(以上は、原告ら自身認識し、容認していたものと認められる)、そのほか、原告らが認識し、容認していたかは明らかではないが、労災保険の適用対象外と取り扱われていたことなど、原告らに対しては雇用関係にある従業員とは明らかに異なる処遇がなされている。

右和解書等の取り交わしが原告らの正社員化の要求に対する協議の結果なされたものであることからすると、右和解書の雇用関係不存在確認の合意は、これらの処遇の違いを背景にして、原告ら自身、被告に雇用されているものではないことを十分認識してなされたものというべきである。

これに関して、原告らは、右和解書の雇用関係不存在確認の条項は、原告らを正社員化するための猶予期間中、原告らが雇用関係の存否を争わないという趣旨にすぎないなどと主張するが、右条項の文言からしてそのような解釈はおよそ無理であるし、和解書三項及び業務委託契約書八条も、単に平成一〇年一月一日以後の正社員化の話し合いに応じるべき義務を被告に課したにすぎないものとしか読めず、被告に原告らを正社員とする義務を課したと解することはできないのであって、右の原告らの主張は到底採用できない。

第二に、原告らは、現実の業務内容、業務遂行においては被告の指揮命令を受けており、勤務時間、勤務場所等の管理も受けていたと主張する。

しかしながら、納入する物品、納入する取引先、納入時刻を被告が指示するのは、輸送業務という原告らの仕事の性質上当然であるし、納入時刻との関係から原告らがタンクローリー社(ママ)を駐車している営業所に出向かなければならない時刻やSSが閉鎖される時刻との関係から当日の業務終了時刻が自ずと定まってくることは認められるが、これらは、被告がそのように定め、あるいは指示するからではなく、原告らが引き受けた仕事の性質から事実上定まってくるものであって、以上をもって、原告らが被告の指揮命令を受けているとか勤務時間、勤務場所の管理を受けていると解することはできない。もとより、被告所有のタンクローリーを(ママ)業務に使用しているからといって、その契約関係が雇用と定まるものでもない。

むしろ、原告らは、就業規則の始、終業時刻等の制限を受けず、時間外労働等の割増賃金の支払もない(出来高払制賃金であっても、使用者は割増賃金支払義務を免れるものではないが、原告らがこれまで割増賃金を問題にしたとは認められず、原告らはその不支給を容認していたものと解される)のであって、原告らに求められていたのは仕事の結果であり、原告らが、指示された仕事を遂行する限り、それ以外に業務の遂行方法について指揮命令を受けていたとか、時間的、場所的な拘束があったとは認められない。

原告らは、タンクローリー車を所有しないことや最低保障額からの減額があること等を理由に仕事の諾否の自由もなかったと主張するが、それも事実上のことであって、拒否することは自由であり、ただ、仕事を拒否するなどして欠勤すれば最低保障の二五分の一が減額されるというにすぎない。雇用関係にある従業員の場合は、理由の有無に関わらず欠勤すれば欠勤控除がなされるのみならず、被告の指示に反して労務を提供しない場合には、内部的な懲戒の対象となったり、さらには債務不履行の責任を問われるのであって、原告らの仕事の拒否とは本質的に異なる。

第三に、原告らは、タンクローリー車の運転という業務の性質からして原告らの業務には代替性がなかったとも主張するが、この点は、タンクローリー車という特殊車両の運転技術を有する限り代替性はあるともいえるのであって相対的なものであり、当然に原告らの一身専属的な労務の提供が求められていたと解さなければならないというものではない。右のとおり、原告らに求められていたのは仕事の結果であり、業務遂行において被告の指揮命令に服していたとは認められないことからすると、原告らが自らの責任のもとに、他車を用い、運転技術を有する他の者を使用するなどして被告から指示された仕事をしたとしても、これをもって債務の本旨に従った履行でないとすることは困難というべきである。

以上によれば、原告らと被告との法律関係は請負または委任、もしくはそれらの混合契約というべきであり、原告らは労働基準法上の労働者には該当しない。

よって、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判官 松尾嘉倫)

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